田吾作と念仏とわたし
向こうから クワをかついだ田吾作が
わたしのほうに近づいてくる
田吾作のことは好きでもなければキライでもない。
そっと私の耳に顔をよせて
「ナムアミダブツ…」
このベタな展開に
「わたしを甘く見るんじゃない」
とケリを食らわせるか(いや…暴力はよくないな)
涼しい顔して
「ん、念仏?知らんがな」
と、ことわざ通りの予定調和を演じるか
ああ、どうすれば…どうすればいいのか
空をあおぎ 悩んでいるうちに
田吾作は遠ざかっていく。
田吾作からただの馬だと思われるのが
わたしはすこし、くやしい。